イラク人質と拉致問題と武士道
2004年4月14日
宇佐美 保
「義を見てせざるは勇なきなり」をバックボーンとする、我が「武士道の国」の民なら当然、どんなに危険でも、又、危険だからこそ、苦しんでいる方々を助けたい、その役に立ちたいと思うのは当然ではありませんか!?
只悲しい事に、私達は、それを実行出来ないのです。
(「武士道」に関して等、拙文《武士道と自衛隊と勝海舟》を御参照下さい。)
2001年1月26日に、JR新大久保駅で線路に落ちた人を助けようとして死亡した韓国人留学生李秀賢さんと、カメラマン関根史郎さんの行為を誰が真似出来ますか?!
そして、「死ぬのが当たり前と思われる行為を行うは、愚か!」と誰が非難しましたか?!
私には、絶対出来ない行為です。
出来ない私は、今もってお二人の行為に感謝し、尊敬の念を抱き続けております。
そして、お二人が、生き返る事が出来るなら、なんとか生き返って欲しいと願っております。
ですから、今回イラクで拘束された3人高遠菜穂子さん、今井紀明さん、郡山総一郎さん共々、李秀賢さんと、関根史郎さん同様に、自分の生死を顧みることなく、イラクに飛び込んだのではありませんか!?
従って、4月12日の衆議院のイラク特別委員会に於ける、川口外務大臣や、外務省の竹内事務次官の如何にも官僚の責任逃れ体質がにじみ出た次の発言は、虚ろに響くのです。
「イラクの人を助けたいという気持ちを持っていたにせよ、退避勧告が出ていた場所に行かれたのは大変に残念だ」、「今年に入ってからイラク国内から退避するよう勧告する渡航情報を13回も出している」(川口外務大臣) 3人の行動について「邦人保護に限界があるのは当然だ。自己責任の原則を自覚していただきたい」(外務省の竹内事務次官) |
ところが、4月10日のフジテレビの番組でテリー伊藤氏が発言していたよう(拙文《人質と自衛隊のイラク撤退》)に、誰も予測しなかった人質という事態が発生したのです。
マスコミは、今回の事件を、「恐れていた事が現実になった」旨を述べますが、だったら、カメラマンの郡山氏が、イラク出発前に週刊朝日を訪れた際、週刊朝日の編集長は、人質の件を心配して彼を絶対に引き留めるべきだったでしょう。
万一、編集長の制止を振り切って、彼がイラクへ行ったとしても、人質になる危険を予知していながら、若い石井さんや、女性の高遠さんを道連れにする事は絶対になかったはずです。
(マスコミも予知していなかったのです、又政府関係も予知していなかったのです。)
人質になられた3人の方々は、当然、死を覚悟されておられるでしょう。
でも、日本に残されたご家族の方々は、たとえ納得して彼等を送り出したとはいえ、自分の子供が、兄弟姉妹が殺されるのを黙って見過ごす事は出来る訳はありません。
あらゆる手段を講じて救ってあげたいと思うのは、当然の人情ではありませんか!?
なのに、高遠さんのHPにアクセス殺到し、その大半が、批判や中傷で「こんな時期に民間人がイラクに行ったらいかんよ」「自業自得。リスクは承知の上で行ったんでしょ」。同内容が繰り返し書き込まれている例も多かったと云うのですから、驚きました。
その上、次の朝日新聞の記事(4月13日付け)には、この国は一体どうなってしまったのだろうかと思いました。
人質事件、高遠菜穂子さんの自宅に嫌がらせ電話相次ぐ 北海道千歳市内にある高遠菜穂子さん(34)の実家にはここ数日、東京にいる弟修一さん(33)、妹井上綾子さん(30)らの記者会見発言に対する批判や嫌がらせの電話や手紙が相次ぎ、知人らが電話を取り次ぐなどして対応しているという。 関係者によると、拘束されたことが報道された日から、「自業自得だ」などとする電話や手紙があり、その後、テレビで弟妹らの記者会見の模様が流れると、すぐに嫌がらせの電話が鳴るという。 高遠さんの母京子さん(65)は13日午前、自宅前に姿を現し、「菜穂子たちへの多くの支援に感謝しています。ただ、若い娘と息子の記者会見での感情的な発言が誤解を招いているようです。追いつめられた状況の中で声を荒立てることを、そばでいさめることのできないもどかしさを痛感しています。どうか2人の心情をくんでやってください」と声を詰まらせた。 一方、今井紀明さん(18)の札幌市内に実家にも同様の電話があり、今井さん方では13日から、電話番号を替えた。 |
昨夜(13日)のTBSのニュース23に於いて、筑紫哲也氏は次のように発言しました。
この3人のイラクで捕らわれている人たちは、少なくとも自分の利益のために何かしたということはありません。私たちはこういう若者を必要としているのかしていないのか、そして、さらに卑劣な中傷をする人たちとどちらを必要としているのか、考えてみていいことではないでしょうか。 |
この筑紫氏の発言で思い浮かんだのは、週間新潮(2004.4.15号)の“早くも暗雲「古舘伊知郎」報道ステーション”との記事での、作家の麻生千晶さんの元テニスプレーヤー松岡修造氏を非難する次なる見解です。
「……松岡修道のお説教を延々と開かされるのにも呆れました。なんであんな若造のお話を時間をかけて聞かなければいけないんでしょうか。……必要以上に若者に媚びています」 |
尚、私の記憶では、松岡修造氏の発言は次のようなものでした。
僕は、日頃から若者には必ず注意するように心がけている。 その際、自分の足を横に開いて、彼等と同じ目線となるようにして、注意しています。…… |
私は、実際に松岡氏の発言を聞き大変感銘を受けました。
麻生千晶さんは、“番組が必要以上に若者に媚びています”と非難されていますが、番組だけでなく、世の中全体が若者に媚び、否!それどころか若者を恐れています!
その結果、残念ながら、私達大人は、若者への注意を怠っています。
否!怠っていると云うより、若者へ注意すると、逆に「ムカツク!」等と云われて、歯向かって来られることを恐れて、見て見ぬ振りをしているのです。
しかし、松岡氏は、日頃から、きちんと若者達への注意を心がけ、自分の足を横に開いて彼等と同じ目線となるようする事と同時に、自分の急所の股間を無防備にしているのです。
この様な彼の姿勢によって、注意される若者達の心が開き、彼の忠告が素直に受け入れられるのだと思います。
この様な、松岡氏の配慮は、作家の麻生千晶さんには判らないのでしょう。
多分、麻生千晶さんは、日頃若者に注意などしていないと思います。
そんな彼女に、松岡氏を非難する資格があるのでしょうか?!
それも「若造」等と云って!
筑紫氏は、素晴らしい発言をしておきながら、例によって筑紫氏ご自身は、「若者」と「中傷をする人たち」とのどちらかを選択するかを、宣言しませんでした。
私は、この3人の「若者」こそが、これからの日本にそして世界に必要な人材と存じます。
この意味からも、小泉首相は全力で、3人の救出に立ち向かうべきと存じます。
そして、確かに無謀であったかもしれない今回の3人の行動は、韓国人留学生李秀賢さんと、カメラマン関根史郎さんの行為が私達に多大な感銘を与えたと同様に、イラクの方々へも大きな感銘を与えたはずです。
そして、この行為も、イラクへの大きな人道支援となるはずではありませんか?!
それから、退避勧告が出たからと云って(大手のマスコミは退避してしまうようですが)、郡山カメラマン等、全てのジャーナリストがイラクから退避してしまったら、どうやって私達はイランの現状を知る事が出来るのですか?!
ベトナム戦争の写真を撮りつづけ、ピューリツアー賞を受賞し、カンボジア内戦で死亡した沢田教一カメラマンは、常に自らの身体を安全地帯に置いていたのでしょうか?
高遠さんのお母さんは、“若い娘と息子の記者会見での感情的な発言が誤解を招いているようです”と謝罪されておりますが、だからといって何故、高遠さんのご家族を非難するのですか?!
今日(14日)の日本外国特派員協会での記者会見の席上で、被害者の家族の方々は、お気の毒にも「世界に迷惑と心配をかけた」との謝罪のみに終始しているようでした、自分達の本音を述べる事が出来ないこんな日本は民主主義の国ですか?!
日本は、サダム・フセイン下のイラクではないはずです。
この様に、母親が、子供や夫に対する本当の心を訴える事が出来ない今の日本の風潮を悲しく危険と感じます。
なにしろ、マスコミ関係の方から、拉致議連、拉致の会の御意見に反する「曾我ひとみさんを北朝鮮のご家族のもとへ行かしてあげたら!?」等の見解を眼にした事がありません。
今、思い起こせば、北朝鮮へ拉致された方々のご家族の発言でも、「感情的な発言」が多々あったと記憶しています。
どちらのご家族も、深い悲しみを抱かれている筈です。
ですから、拉致議連の方々が、真っ先に今回の3人の救出への声を上げるのかと思っていました。
でも、拉致議連の議員の発言を、マスコミから知る事が出来ません。
「イラクへ行った3人は、イラクに退避勧告が出ているのを承知の上で云ったのだから、自業自得、北朝鮮の被害者とは違う」との見解なのかもしれません。
でも、曾我ひとみさんや、横田めぐみさん達は、確かに、ご自分達の意志に反して強引にお気の毒に日本との国交のない北朝鮮に拉致されました。
しかし、曾我さんの御主人のジェンキンスさんは、自らの意志で北朝鮮に脱走しています。
更には、日経新聞には、次のような拉致された方々の記述もありました。
((http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt25/20021002KQ5A2001_02025002.html))
本人が北朝鮮への観光の意向を示した方。 金もうけと病気治療のため、海外行きを希望。工作員が本人の戸籍謄本を受け取る見返りに100万円の提供と北朝鮮への入国を密約した方。 留学中、特殊機関メンバーが北朝鮮行きを誘うと、一度行ってみたいと応じた方。 北朝鮮の特殊機関工作員から北朝鮮訪問を勧められ応じた方々。 |
勿論、ご本人の発言そのものではないのですから真偽のほどは判りません。
更に、4月11日のテレビ朝日のサンデープロジェクトでは、元タイ大使の岡崎久彦氏は、
“3人の命と、自衛隊の撤退という国家の方針では秤の掛けようがない” |
旨を発言していました。
若し、そのように国の決定事項がそんなにも御立派だとしたら、何故、拉致問題を20年以上も放置していたのですか!?
更に付け加えますなら、何故国民年金、厚生年金をガタガタにしてしまったのですか!?
それに引き替え、共済年金は、それこそ立派に運営されているというのに、可笑しいではありませんか!?
私達は、常に国家の方針に対してチェックする眼を持ち続けるべきではありませんか?
小泉首相は13日夜、
「政府としても今年に入って13回退避勧告を出している。多くの国民は真剣に受け止めて頂きたい。これに従わず入ってしまう人がいるようだが、そういうことはしてほしくない」と記者団に述べ、日本人の渡航自粛を強く求めた。 (朝日新聞) |
と述べていますが、だったら、自衛隊にも退避勧告を出したら如何ですか?!
しかし、先のサンデープロジェクトでは、「今回の自衛隊派遣の趣旨」に対して、岡崎氏は、
「日本の安全の為には、日米同盟が不可欠で、助力を必要としている米国に協力するのが当然」 |
又、元内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、
「米国に北朝鮮の脅威から守って貰う為」 |
と語っていました。
「武士道の国」である筈の我が国が、そんなにも、米国に頼って行かなくてはならないのですか!?
この様な国が、国際社会から尊敬されるのでしょうか?
更には、自衛隊は人道支援にイラクへ派遣されているとの事ですが、人道支援なら隣国の北朝鮮への人道支援を図るべきではありませんか?
否!人道支援の前に拉致問題の解決だ!との御意見も御座いましょう。
だったら、何故、小泉首相も、安倍幹事長も、川口外相も、単身ででも、平壌へ乗り込んで交渉しないのですか?
そして、この様な今の政治家の方々を思うたびに、よど号のハイジャック事件の際、乗客の身代わりとなって、犯人共々北朝鮮へ行った当時の運輸政務次官の山村新治郎氏を思い出さずには居られません。
山村新治郎氏対して、今回の3人、そして、韓国人留学生李秀賢さん、カメラマン関根史郎さん同様に「義を見てせざるは勇なきなり」の武士道を具現者として、私は敬意を払い続けております。
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